うつろわざるもの
人は変わりゆくものだ。変わってゆくべきだ。
「お久しぶりです、鳴海さん。」
しかしながら、その鳴海の持論とは裏腹に、久しぶりに顔を合わせたは何も変わっていなかった。なぜか鳴海の方が狼狽えてしまうくらい、変わっていなかった。
「また、ライドウ様とゴウト共々お世話になります。」
深々と、は頭を下げる。初めて出会った時と同じだった。知らない間柄でもないのに、鳴海も反射的に腰を折り曲げてしまった。いつもの大人の余裕はどうしたんだ、と自分で自分を叱咤する。そうしながら顔を上げれば、ふんわりと微笑むと目が合った。
「おそ、かったね。ライドウちゃんも暫く待ってたんだけど依頼が入ってたから。」
眉を寄せて心の底から申し訳なさそうな顔をしたは、身軽な恰好だ。マントこそ身につけていないものの、同じ弓月の君高等師範学校の制服。片手に持てるほどの旅行鞄を持っている。荷物の手配に手間取ったようにはとても見えない。
「明日には幾つか箱が届くと思うのですが、責任を持って私が受け取りますので。」
答えながら、鳴海は未だ探偵事務所の入り口で立ち話をしていることに気がついた。慌ててを中へ導くと、椅子に座らせる。珈琲でも淹れるよ、と備え付けの台所にひとりで入った。カップの準備をしながら、少し後ろを振り返る。そうすると背筋を真っ直ぐ伸ばし、前を向く後ろ姿が見える。何も変わらないの後ろ姿。
「ちゃんは、」
自分の中でむくむくと頭を擡げる疑問は、遂に口から飛び出してしまった。何と藪から棒な物言いかと自分でも思いはしたが、口から出てしまったものは仕方ない。食べ物のような固形物なら兎に角、形のない言葉では掴んで戻すことも出来ない。
(まあ、食べ物でも汚いけどなあ。ちゃんは表情変えないでくれそうだけど、ものすごい呆れそうだ。)
自分で自分の思った言葉に呆れていると、一口珈琲を飲んだが鳴海を見つめた。言葉を選ぶように暫く沈黙し、目を伏せるとカップを机に戻す。そして、またこちらを見つめてきた。
「私は、ライドウ様の影ですから。あの方が、帝都守護とは関係ないところで危機に直面すれば、代わりにその厄災をかぶるのが私の役目。」
それが、例え命を落とすような危機であっても。
「その役目しか負わぬ私が変わることに、何の意味がありましょう。」
変わる必要は無いのだと、は言うのだ。
「後悔しないの?」
はそう言って、たおやかに笑みを浮かべた。鳴海は、その笑顔に思わず胸を突かれる。
「僕はあの人が大切だから。守る人と大切な人が同じなんて、とてもしあわせでしょう?」
彼は変わらない。鳴海が思っているようには、変わらない。突かれた胸に知らず手を置いて、鳴海はにどんな顔を向けたらいいのか分からなかった。
(―…そうか、俺は。)
すっと、不意に視界が開けたような気がした。同時に、背後で扉が開く音がして、がふわりと立ち上がる。
(俺は、この子に変わって欲しいんだ。)
「おかえりなさい、―様。」
ライドウ、ではない、彼の本当の名を呼ぶの先程の言葉は、全てが本当なのだろう。彼にとって大切な幼馴染みを、役目でもまた大切に守ることができる。それはきっと、今の彼にとって揺るぐことのない柱になっている。どんなに時を経て誰と交わろうと、その柱がある限り、は変わらないのだ。
「さあ、ライドウちゃんも帰ってきたことだし、改めて珈琲でも飲み直そうか。ちゃんのも、冷めちゃっただろ?」 本当に気のせいだったのか、ゴウトはもう既にの腕の中で丸くなっている。黒猫か、それともか、じっと視線を向けているライドウにも笑いかけて、鳴海は机に向かった。 |
(081127)
なんかちょっと訳分かんない感じですか?(聞くなよ)
ちなみに主人公もサマナーです。
鳴海さんは構いたがりで無自覚片思い。