私とワルツを
士官学校の寮での生活をグラハムはとても気に入っていた。その一番の要因は、ルームメイトだ。 「やあ、!」 遠目にそのルームメイトの姿を見つけ、グラハムは大きな声で名を呼んでから駆け出した。大声で名を呼ばれたの方は、グラハムの声に驚いて立ち止まった他の友人達に軽く手を挙げてグラハムの方へとゆっくりと歩いてくる。近付くにつれ、その顔に浮かんでいるのが呆れたような笑顔だと知った。 「グラハム!…そっちも今日の訓練は終わったの?」 今日はふたり別々で実際に軍隊で使っているMSを使っての訓練を行っていた。はグラハムが来るまで彼のグループが訓練を終えたことを知らなかったようだが、グラハムは逆だ。しっかりと、彼のグループが訓練を終えたことを「見届けて」会いに来た。 「すごかったな、。」 乗り込むところは見ることが出来なかったが、模擬戦の時のリアルドの動きだけで、グラハムにはが搭乗している機体を知ることが出来た。それ程に他の追随を許さない、抜きん出た操縦技術だった。 「ありがとう…まさか見られてたなんて、ちっとも思わなかった。」 そう言うところもまた、の魅力だ。グラハムは心の中でこっそりと付け足して、歩くことを促した。ふたりは並んで、寮への道程を進み始める。スポーツバッグを掛け、見慣れた制服に身を包んだは、ぺったりとした自身の前髪を気にして指でつまみながら歩く。 「そういえば、グラハム。今日の夜はやっぱり行くの?」 指に前髪をくるくると巻き付け、そちらに注目しながらがぽつりと言った。訊ねるというよりも独り言のようだが、同じくの前髪を見つめていたグラハムは少し瞠目してから頷いた。 「当たり前だ。確固たる地位を築くまでは、ああいう社交の場にも顔を出した方が良い。」 今晩、とある場所で晩餐会が催される。訓練生ながら、グラハムとも親の繋がりで招待を受けていた。ふたり揃って外出と外泊の許可は申請済みだ。決まり切った予定を改めて聞かれて、グラハムは瞠目したのだ。 「俺、苦手なんだ…ほら、ダンスとか、ああいうの。」 予想だにしない言葉に、グラハムが素っ頓狂な声を上げる。は困り顔を微かに赤くした。歩調を少し速めながら、もごもごと白状する。 「だから、苦手なんだって。ああいうところ行くと大抵誘われるだろ?でも、俺がやると、なんかこう……ご婦人の足を踏むのがオチだ。」 あまりに意外だった。確かに、今までなぜかグラハムはと同じ社交の場に立つ機会がなかった。互いの家も親交があり、どちらも共通する知り合いに晩餐会に呼ばれる機会はこれまで何度か会ったにもかかわらず、顔を合わせたことはない。漸く、初めて一緒に行くことができると思ったら、こんな告白を受けるとは。 「、」 覗き込もうとすれば、また速度が上がる。そんなちょっとした追いかけっこをしながら、いつもよりも速いペースで寮の部屋に辿り着く。先にドアを乱暴に開けて駆け込むようにが部屋に入る。後続だったグラハムは、後ろ手でドアを閉めて施錠も済ませてから大股でに近付いた。流石に部屋の中に入ってしまうと逃げ場はない。 「いいじゃないか。人間、不得手の一つや二つくらい持ち合わせているものだ。」 自分では欠点だらけだと常々駄目出しばかりしているのだが、どうやら彼の目に写るグラハム・エーカーはまた違うらしい。軽くくちびるを尖らせながら、内心はの目に写る自分が果たしてどんなものなのか、興味が湧く。 「グラハム、いい加減手を―」 手首にかけられた白い手を、逆に掴み取った。驚くを尻目に、恭しくその手を目線まで掲げて、くちづけを落とす様に顔を近付ける。今度こそ首から額まで真っ赤に染まった彼の顔に、口の両端が自然とつり上がった。 「遠慮しなくて良い。しっかりリードしてあげよう。」 あくまでグラハムの態度ではなくて、そちらの方に抗議してくるあたりがなんともらしくて好ましいと思った。そのまま手の甲に本当にキスしてしまいたい。今度こそ怒られてしまうだろうから、今日の所はここで寸止めしておかなければ。 (いいじゃないか、君が覚えるのは女性のパートでも。) 当然のように、グラハムは考える。そうしたら、の相手は何度でも、いつまでも、自分がつとめれば良いのだから。 |
(081207)
グラハム氏は生粋のドSです(ぇぇ)
書きたい話が全部入りきらなかったなあ…ちなみに、主人公はこの後ユニオンから出て行きます。
ファーストシーズンの10年くらい前のイメージで書いています。
士官学校があったのかとか、家柄が良いのかとかは全部捏造です!(言い切った)