変わり者同士の押し問答
変わってるなあ、と思う。
「やあ、じゃないか。」
こちらは両手に段ボールを抱えていたから手を振り返せなかったけれど、意に介することなく、そのまま彼はこちらにやって来た。逃げる理由は無いから、も立ち止まって彼がやってくるのを待つ。
「お疲れ、ジーノ。」
そう言って、ふう、と悩ましげに溜息を吐く。おそらく松原辺りが聞けば「頑張り過ぎなんてことはないだろう!!」と丸々した体形を弾ませながら怒るに違いない。生憎、ここに居るのは頑張りすぎたと思っているジーノと、多分そこそこくらいだろうななんて思うけど口にはしないだけだ。
「今日はもう上がり?」
頷いていたジーノは器用に喋りながら片眉を跳ね上げて、を見下ろした。そして、が「え」と声を発するより早く、その鼻を長い指で緩くつまむ。
「む!!」
鼻が詰まったような声をが上げると、ジーノはそれは楽しそうに笑いながら、少しだけ指に力を込める。ジーノのそれに比べれば低い自分の鼻は、つままれていると息がさっぱりできない。結果、だらしなく口を開けるはめになる。
「ジーノ!」
微かに怒ってみせれば、両手を降参、と挙げる形でジーノはの鼻から指を離した。やっと自由に出入りするようになった空気に、は肩の辺りに鼻をすりつける。
「…ったく、」
きょとんと首を傾げたジーノは、が怒っていないと言うなり少しだけ嬉しそうに笑う。それに首を傾げながらも、「おかしな」と評された表情の理由について続ける。
「ジーノが入ってくるのが見えた時になんとなく…ねえ、サインしてあげないの?」
ジーノのサインは非常にレアだ。ファンに対して誰にでも分け隔てなく手を振ってくれるけれど、いくら頼んでも、色紙を掲げてアピールしても彼はサインをしてあげない。他の選手に比べたら断然人気があるし、好かれているのだからサインの1枚や2枚、気紛れにしてあげればいいのにとついつい思ってしまう。
「…まあ気が向いたらしてあげないことも無いけど、色紙を掲げる子みんなにしてあげる気にはなれないしね。」
事も無げにそういうジーノの顔は、を見ないで眼を細めていた。彼が何を考えているのか、普通に推し量ることは難しい。
「これ、のかい?」
何ともジーノらしい感想だが、クリアファイルを持った彼はまじまじとそれを見つめて「こんなものかな」と呟いた。が怪訝な顔で応えるよりも早く、ジーノは片手でクリアファイルをしっかり持って、もう片方の手に持ったマジックでさらさらと何やら書き始めた。
「だから、あげてもいいよ。」
そう言って笑ったジーノは、サインの書かれたクリアファイルも段ボールの中に戻した。最初は蓋が閉まってなかったそれを、丁寧に閉じて、ぽんと叩く。
「は変わってるから、ボクも時々つられて変な行動をしてしまうよ。困ったものだね。」
そうして、数分前にが誰かに思ったことをそのままこちらに被せてきた。どっちが、と言いたかったが、どうしてか今のジーノにそれを言う気になれず、は押し黙る。 |
(090211)
書いちゃった!(笑)
只今大ハマリ中のジャイキリ夢1号です。なぜか好きすぎて困っている王子で。
モーニングで連載中で、只今単行本が9巻まで出ています!
サッカーの監督が主役のマンガで、ほんと、キャラも魅力的で話も面白いからぐいぐい引き込まれちゃいます!
おすすめです!ジャイキリ夢増えると良いな〜(笑)