Xocolatl 4
お茶をプラスチックのコップに淹れてが帰ってくると、リーグジャパンチップスの袋を片手に後藤が腕組みをしていた。近付けば、彼の目の前、机の上にチップスの中に入っていたと思われるカードが置かれていた。 この製品は本体の袋の裏にもうひとつ小さな袋が貼り付いている。そこには、2枚組の選手のブロマイドカードが同封されているのだ。もちろん、ETUの選手のカードが入っている場合もある。どうやら、後藤は、このチップスを食べるときの目的のひとつである、ブロマイドカードの袋を開けたのだろう。 せっかくもらったのだ。誰のカードが入っているのかも興味があったから、お茶を淹れたコップを傍らに置いてから後藤の背からカードを覗き込む。どうせなら、ETUの選手のカードが入っていたら嬉しい。 「開けたんだ。誰入ってたの?」
戸惑うような後藤の声にカードの袋を見てみれば、チップスの入った袋同様一旦開けてセロテープで閉じた跡があった。眉間にしわを刻んだが、後藤越しに手を伸ばして机の上に置かれたカードを取り上げる。 「…何が「俺のカードが入ってる気がする」だよ。確信犯じゃんか。」
食べようと袋を開けて、そう言えば先にブロマイドをとそっちの袋も開けたら自分が入っていたのだろうか。それにサインをして、わざわざの所に持ってきたのかも知れない。 「まあまあ、恒兄、ワケは分かんないけどさ!作業の続き、しちゃおうよ。」
気付けば後藤の肩を叩いたはずが、自身が彼に肩を(しかも両方)掴まれていて、言い聞かせようとしたはずが、なぜか今からお事々言われるような顔をされている。 「お前、大丈夫なのか?」
つらつらと語り始めた後藤は、に言い聞かせているようで、その実半分くらい自分の世界に入り込んでしまっているようにも見えた。顔は非常に真剣で、こちらのことを思ってくれていることはよくわかる。だが、何の話をしているのかがにはさっぱり理解できなかった。 「ちょ、恒兄こそ平気!?疲れてるならちょっと休んでてよ、俺ひとりでも何とか頑張れるし…」
医療室に行けばベッドもあるし、少しくらい休むのに問題ないだろう。がそう思って提案したのに、後藤は必死の形相で首を左右に振る。 「さん!」 張り詰めていた空気を吹っ飛ばすような扉の開く音と一緒に、の名前を呼ぶ声。思わず後藤とふたり揃って入り口の方を見た。 「あ、かさき…?」
そこに息を切らせて立っていたのは赤崎で、はこの時確かにふっと嫌な予感が頭を過ぎった。気がした。知らない内に顔が引きつる。 「あ、の。その、俺さんに渡したい物があって…」
そのポケットから何かを取り出しながら緊張気味に赤崎が言いかけた途端、は肩に走った痛みに目を丸くした。後藤が両肩を掴んでいた腕に力を込めたらしい。 「後藤さん、あの、腕…」 そういうなり、後藤は有無を言わさぬ迫力をもって、赤崎をひっぱって外へ出て行った。 「…作業、しよっかな。帰れなくなるのも困るし。」 少しの間閉まった扉を眺めていたは、やがて自分に言い聞かせるように呟いて、プレゼントの山に向かった。視界の端で、エアコンから送られる風に吹かれて、ジーノのくれた薔薇が頷くように揺れた。
さて。この日、ETU内でのバレンタインの贈り物について、決まり事がひとつ増えた。こっそりと増えたそれは、大多数の人間には関係ないしその存在すら知られないだろうが、ある一部の人間に対しては確実な抑止力となったのは間違いない。 |
(090216)
題名の「ショコラトル」がすごく関係ない感じの話に…(笑)
何だか勢い半分な感じで推し進めてしまいましたが、これでお終いです。
ザッキーがすごい可哀想ですが、私的にはこういうポジションが多くなる気がします、彼。