考えもしない
「涼さん、葵さん!」 家にほど近い駅の前で並んで待っていた双子は、降り立ったにほぼ同時に手を振った。ひょんな事から接点が出来たと双子は、学校も学年も部活すら違うが何かと仲が良い。 「すいません、迎えに来て貰って。」 電車に乗っている間に降り出した雨は、段々と激しさを増している。が窓から外を眺めながらどうしたものかと困っていたら、葵から「傘を持って迎えに行く」とメールが入った。降りる駅から三駅前のことだ。 「んじゃ行こーぜ…葵、カサは?」 しかし、がこれまでの経緯を思い出しながら感謝の気持ちに浸っていたところで、そんな声が聞こえ始めた。そんな言い合いをする彼等の手には、自分が差す傘しか持たれていない。事情を察したは何も言わずに苦笑した。 「「の分忘れた。」」 それから双子の家までは涼の傘に入れて貰ってやって来た。 「そうだ、おみやげ。」 部屋に通されたは思い出したようにそう言って、座る前に鞄の中に手を突っ込んで探し始めた。先に座ったふたりは、そんなの行動をぼんやりと見上げている。 「チロルチョコ」 涼の言葉に、がにっこりと笑って答えた。おみやげに相手の好きな物を選ばずに自分の好きな物を選ぶ辺りがらしい。 「あ、そっか。バレンタインだ。」 当然、視線は全て葵へと集中する。特には瞬きをして折角選んだチョコを落としてしまっていた。葵は目聡くそれを拾い上げ、さっさと自分の口へと運んでいく。 「あー…あー、そっか。」 次に理解したのはやはり双子というか、涼だった。何度も何度も頷いて、次のチョコを選んでは口に放る。 (バレンタイン?バレンタインって、あの、先週の、アレ?) の記憶が確かならば、それは先週の頭に過ぎ去ってしまったイベントだ。 「チョコ欲しいって言ったじゃん、俺ら。」 訳が判らない、と言う顔をしていたのか、涼がくちびるを尖らせた。葵もまったくだ、と頷いている。しかし、ふたりに言われてもなお、分からないは更に頭を回す。そういえば、 『今度家に来る時はチョコレート持って来いよ。』 こんなやり取りを先々週辺りにした様な、しなかった様な。 「あれってそう言う意味だったんですか?」 だって、バレンタインなんて既に頭には残っていなかったし、正直言えば先日の二人の台詞もすっかり忘れていた。チロルチョコレートをが選んだのは、完璧に自分の嗜好からだ。ふたりが言い出さなければ、もうずっと、それこそホワイトデー間近にでもならなければ思い出すこともなかっただろう。 「ってニブそーだもんなァ。」 の表情を見た涼と葵は、チョコレートをしっかり食べながらも呆れたように言い合う。が口を挟もうとするが、ふたりはこちらの言い分など全く聞いちゃいない。 「ま、いっか。結果オーライだし。」 だが、ふたりはどうしてか満足そうで、すっかり納得してしまっている。余程からチョコレートを貰いたかったらしい。暫くふたりの言動を見ているだけだったは、ふと、思い当たった様子で口を開いた。 「バレンタインのチョコレートがどうのって言うのはこの際置いておくとして…」 そもそも男が男にチョコを渡すイベントではないのだし、どちらが渡すのかなんて決まっていないはずだ。だったら、涼と葵が自分にチョコレートをくれたって良い訳で。チョコレートが好きなとしては、二人がくれても全然構わない。 「ンな事考えもしなかったよなァ、葵。」 (…何で俺が二人にあげるのが当然なんだろう…) さも当たり前だと言わんばかりの二人には何を言っても無駄なのかも知れない。でも、それでも。やっぱり納得しろと言われてすんなり納得できる問題ではない気がする。 |
(050221→090208)
前サイトのバレンタイン企画で書いたおおふり夢その2。
懲りないで双子でした。捏造にもほどがある!けど、楽しいからいいの(笑)