入道雲を見ると夏だなあ、なんて思う。 まあ、別に、この暑さでじゅうぶん夏だって分かるんだけどさ。やっぱり、気分も大切だし。 |
君とシャツと入道雲
休憩中、体育館の外に出てみたら、それはそれは見事な入道雲が見えた。体育館から外に続く扉の前、階段に腰掛けて、もくもくと真っ白なそれを何となく眺め続ける。
そうしていたら、幼馴染みが顔を覗かせた。思わず呼び慣れた様に呼ぶと口元が引きつったので慌てて訂正する。綺麗な名前なんだから良いじゃないかと思うが、嫌なモンは嫌らしい。
「休み時間か?」
野球部は今年から軟式から硬式になったから、部員も1年生ばかりの新しいチームだ。対する俺はバスケ部で、それなりに仲が良いと言ってもばりばりの上下関係にがんじがらめ。だからそう言うところは少しだけ野球部が羨ましい。
「田島とか三橋とか元気?」
幼馴染みが野球部に入ったから、俺がクラスで最初に馴染んだのも自分が所属するバスケ部と野球部の面々だった。野球部の田島は明るくて楽しいし、三橋は一寸変わっている。もうひとり、それを上手くまとめてる泉も楽しくて好きだ。
「は大丈夫か?」
汗がダラダラだよ、と舌を出しながら俺が言えば、梓は苦笑した。
「偶には野球部も見に来いよ、楽しいから。」
前見に行ったら、野球なんて今まで見る専門だったのにバット持たされたりグローブ持たされたり大変だった。それなりに楽しかったけれど、俺は日の下で運動というのがあまりに似合わない事も悟った。体育の授業くらいなら平気なんだけど。
「俺梓みたく丈夫にはなれないなぁ。」
健康的に焼けてる梓に対して、俺のタンクトップから覗く腕は本当に真っ白い。元から色白というのもあるのだがこうやって実際に口に出して言われるとそれなりにムカツク。
「外周も走ってんだから、今に黒くなるんだよ!」
小中とバスケ一筋だった俺の身長は、残念ながら標準より少し高いくらい。バスケットは野球よりも身長が伸びそうなスポーツだというのに。
「いいじゃん、俺よりも身長が高いなんて想像出来ないしさ。」
それでもって、梓はこうやって当然のように言う。昔から俺が身長を気にする度に言うのできっと悪意はない。悪意はないけれど悪意はないからって言って良いか悪いかはまた別問題だ。
「ああもう野球部なんて絶対見に行かねぇ!」
当然のように梓は言う。その調子があまりにも静かだから、俺はあっさりと顔を元に戻して、身体も再び梓へと向けた。何故かこう、梓とは喧嘩をしてみようにも喧嘩まで発展した事が一度もなかったりする。梓が精神的に大人びてるからだろうか。
「…」
成績はそんなに変わらないし、言い合いするときは俺の方が口数だって多い。でも、劣勢になるのはいつも俺の方。今回もやっぱり、言い返す言葉が見当たらなくて結局声に出なかった。
「あー…そうだ、今日一緒に帰ろうぜ。」
気持ちを切り替えて、実は練習中から考えてた事を口に出す。梓は大人しく頷いた。今日は野球部の友達と帰る予定もないのだろう。
「いいけど、いきなりだな。」
入道雲を見ながら言った俺の頭に、ぽんぽんと暑苦しい梓の手。
「…おい」
目が据わった俺に梓が苦笑する。そして計ったように「もう休憩終わりだから」と回れ右しやがった。
「そうだ」
悔しい思いで地団駄でも踏もうかという時に、絶妙なタイミングで梓の声。振り向けば、ペットボトルの横に置いてあるタオルを指さして、
「汗拭いて、シャツ着替えろ。」
いくら夏の熱気で乾くからって放っておいたら風邪ひくぞ。言いたい事を言ってスッキリしたらしい梓は俺の返答なんて待たずに今度こそグラウンドの方へと行ってしまった。
「もしかしてアイツ…」
それだけ言いに来るためにわざわざここまで来たんだろうか。 |
(041231→090208)
これが一番最初に書いたおおふり夢。夏のお題企画でした。
今回加筆・修正して久しぶりに日の当たるところに出て来ました。
にしうらーぜでは梓が好きなんです(笑)