王子様のお気に入り
「あんれー?王子先輩じゃん。」 背後から聞こえたのんびりした声に、蒼威は振り返った。そこには蒼威が思った通りの人物が立っている。 「今日和ー、王子先ぱーい。今日も大量ですね。」
その人物は何が楽しいのかにこにこと笑っていた。すっと手を挙げて、人差し指で蒼威の胸の辺りを指す。そこには、抱えられた大量の女子生徒からのプレゼント。 「、その王子先輩ってのはどうにかならないのかな?」
訳の判らない理由を口にして、人物―は蒼威へと近づいた。無遠慮にその腕からプレゼントの一つを取り上げ、しげしげと眺める。 「アハ、みんな見る目無いですよねー」 王子と呼ばれ、熱狂的な親衛隊もいる蒼威。文武両道、眉目秀麗。まさに非の打ち所がないとはこのことだ。 「あ、すんません。つい。」 あまり申し訳なさそうではない謝罪である。 「こんな所で何をしてたんだい?D班は欠員が多くて忙しいだろうに。」 自分の腕の中にプレゼントを戻したのを見計らって、蒼威が問う。 「やだなー、俺だってちゃんと仕事してますって!」 蒼威の言葉にがへらりと笑った。こんな気の抜ける笑みを浮かべていても、は異才の存在だ。 「今は一寸…息抜きを。」
歯切れの悪いその様子にも、何となく、蒼威は今のの調子が判った様な気がした。顔を覗き込めば、いつの間にかへらへらとした笑いが、苦いものに変わってしまっている。目が合えば、はびくりと肩をびくつかせた。 「…何時ぶりの?」 蒼威は顔を覗き込むのを止めて、背筋を伸ばす。そうしてから、わざと声にも顔にも表情を無くして言ってやる。 「」 圧倒する声で、名を呼んだ。あうー、とが言葉にならない声を出して観念した様に肩を落とす。 「えぇーと…約3日ぶりの息抜きデス…」 (あんまりどころか、ほぼ水分以外摂ってないんだろう…。)
あまりに呆れてしまって、蒼威は大きく息を吐き出した。何が息抜きだ。これではドクターストップがかかったから強制的に作業を中断させたというのと変わらない。せいぜい他が止めたか、自分で止めたか、の違いだ。 「来い」 行かせてたまるか、と心の中で呟いた蒼威は、回れ右したの後ろ姿に手を伸ばす。男にしては少しほっそりとしているの二の腕を掴み、引っ張って再びこちらを無理矢理向かせる。そして、顔を見るより早く今度は自分が反対を向いて歩き始めた。
慌てた様なの声が、情けなく後ろから聞こえてくる。その声には一言も応じることなく、蒼威は無言で黙々と歩き続けた。
行き着いた場所は蒼威の寮室だった。 「適当に座るといい」 おそるおそるといった雰囲気で腰を下ろしたの向かい側に座り、蒼威は手にしていた皿を置いた。 「これ、」
目の前に置かれた美味しそうな食べ物に、はまだ困惑気味だった。王子様に心配された挙げ句食べ物を貰ったなんて、いくら男でも親衛隊の皆さんに恨まれそうだ。心の中であまり笑えない想像を働かせながら、皿に手を付けるべきか、やはり迷ってしまう。 「あの、王子先ぱ」
の言葉を遮って、蒼威は言った。何なら添い寝しようか?と、冗談半分に続けた言葉は丁重にお断りされてしまった。にっこりと、女子生徒が良く悲鳴を上げる甘い笑みを浮かべてやる。 「…俺が」 不意に、オムレツを食べる手を休めてが声を出した。蒼威が無言である事でその先を急かす。 「俺が倒れると王子先輩が困るんですか?」 あっさりと即答してやれば、が目をぱちくりさせた。 「班違うのに?」
判った様な判らなかった様な、そんな曖昧な返事。はそのままオムレツを平らげる作業に没頭し始めてしまい、蒼威は人知れず苦笑した。ここまではっきり言ってやったのに、まだこんなとぼけた返答しか得られないのか。 「結構、君のことが大切なんだよ…?」
小さく呟いた声に反応して、手を止めて顔を上げたに、何でもないと手を振って微笑を返す。は微かに眉を寄せて、蒼威を見上げた。 「どうした?」 |
(030924→090208)
懐かしすぎるランブルフィッシュ夢。
昔のいろいろあさってたら見つかって、尚かつ結構気に入ってたので加筆・修正してみました。
角川スニーカー文庫で出てた小説ですね〜、王子恰好良い上にいい性格だったんですよ!