「、これやるよ」 「あ、堺さん。ありがとうございます」 「あ、あの、さん、これ、良かったら」 「え、いーの?ありがとう、椿」 「まずいけど食うか?」 「…まずいんですか?おいしそうですけど」 「クロはこういうの嫌いだからな。別にまずくない」 「スギさんがそう言うなら大丈夫ですね。いただきます」 「赤崎、どした?」 「さんチョコ好きっすよね。俺食わないんであげます」 「あ、さーん!これ俺のオススメっす!こっちは有里ちゃんに!」 「ありがと世良。後で有里に渡しとく」 そんな風に色んな人たちに声をかけられて、次々に手渡されたのは揃いも揃ってお菓子ばかり。おかげさまで俺の机には、こんもりと山が出来上がっていた。 「…すごいな」 その山を眺めながら、後藤さんはどこかうんざりした様子で呟いた。ひとつひとつを手に取ってパッケージを見比べていた俺はその声に顔を上げて、今手に持っているものを後藤さんに向けて差し出す。 「後藤さんもどうですか?これとか、おいしそうですよ」 「遠慮しておく。はよくそんなに食べて太らないな」 「俺、太らない体質みたいなんですよね」 毎日のようにお菓子を食べているけれど、特にこれといった運動をしなくても、何故か俺は体型を維持できている。まあ、この仕事で走り回っているせいもあるんだろうけど、それでも太らないのは体質的に恵まれているからだろう。父さんと母さんに感謝、だ。 「ずるいー…」 地を這うような声に、びくりとする。そろそろと振り向くと、向かいの机に突っ伏すようにして俺を睨み付ける有里がいた。 「な、なんだよ…」 「あたしは食べたいの我慢してるのに」 ここで迂闊に「食べたらいいじゃん」なんて言ってしまうと、恐ろしいことになるのは目に見える。だから敢えて何も言わないで、苦笑いだけを返しておいた。 「みんなが買ってくるのも、くんにだけだし」 少しだけ寂しそうな声に、言葉を失った。今まで考えたこともなかったけれど、そう言えばみんなが有里にお菓子を渡しているところを見たことがない。 「そういえば、その山はどうしたんだ?」 「えーと…みんなにもらったんですけど」 俺が無類のお菓子好きだということはみんな知っている。だから今までも貰い物だったり余り物だったりをくれることはあったけれど、こんな風に山になるほど貰ったことはなかった。何で誕生日でもないこんな日に、と最初は不思議だったけど、昨日から店頭に季節限定物が並び始めたから、そのせいなのだと思う。 そして、俺にだけ買ってきて有里に買ってこない理由。それは、日頃から有里がお菓子ばっかり食べている俺に怒っているところを見ているからじゃないんだろうか。食べてばっかりじゃ太るとか、体に悪いとか、こっちが具合悪くなるとか。そういうのを気にする有里にお菓子なんて渡したら何を言われるか分からないし、みんなも買って来辛い部分があるんだろう。そうでなければ、俺だけが貰う理由なんてない。有里は、うちの紅一点なのだから。 「…あ、そうだ、忘れてた。有里」 「何よ」 「これ、世良から有里にって」 山の中に埋もれていたものを探し出して、はい、と有里の手のひらに落とす。それは今流行りの、スイーツの形をしたストラップだった。 「ペットボトルについてたんだって。オマケで悪いけどって言ってた」 しばらくストラップを眺めていた有里は、やがて少しだけ頬を緩ませて、世良にお礼を言いに事務室を出て行った。残された俺と後藤さんは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべ合う。 「それで、ひとりで食べきれるのか?」 「日持ちするものばっかりなので大丈夫だと思います。無理そうだったら、選手の人たちと食べますし」 「何を食べるんだい?」 突然聞こえた声の方を振り返ると、ドアのところにジーノが立っていた。その目が俺の机を捉えて、嫌そうに顔が顰められる。 「ボクはいらないよ」 「…言われなくてもジーノにはあげないよ」 ジーノからは貰ってないし、と呟くと、何故かジーノは対抗心を燃やしたようだった。ごそごそとポケットの中をあさっていたけれど何もなかったらしく、俺を睨んでくる。…何で俺が睨まれなければならないんだろう。 「明日を楽しみにしているんだね」 「え、ちょ、」 意味不明な宣戦布告のような言葉を残して、ジーノは去っていった。話しかけてきた時も突然だったなら、いなくなるのも突然だ。 「…なんで?」 「何かが気に入らなかったんだろうなあ、ジーノは」 「後藤さん、他人事だと思ってません…?」 どこか楽しげな後藤さんをじとりと睨むと、ははっと笑われてしまった。やっぱりこの人、楽しんでる。 はぁ、と無意識に溜息が漏れる。何だかどっと疲れたような気がするけど、とりあえず今はこの机を片付けなければ。さすがにこのまま帰ってしまうと、明日の仕事に支障を来たす。 そういうわけで、如何に綺麗に引き出しにお菓子を詰め込むことができるかということに夢中になった俺は、すっかりジーノの言葉なんて忘れてしまっていた。 そして翌日。少し寝坊していつもより遅く出勤した俺の目に、綺麗に片付けたはずの机がまたお菓子の山になっている光景が飛び込んでくるのだった。
愛あるプレゼント攻撃
*かがさんへ* |
(100415)
三月さんにいただきました!ジャイキリですよ〜、愛されですよ!!
こんなにかわいい主人公だったら愛されて当然!っちゃ当然ですよねえ^^
しかも私の王子好きもしっかり分かってくださってるので、オチはジーノ。うふふ。
顔がにやけまくりでした!ありがとうございます、三月さん!!
三月さんのサイト「ピエロが泣いた日。」はこちら。他のジャイキリ夢も読めますよ★