一年のブランクがあるから実は一個年上。
ぼーっとしてるくせに、実は喧嘩が強い。
実は、ヤンクミとすごく仲が良い(親戚か何かじゃないかって野田は言う)。
それくらいしか、知らない。
「うっちー、どうしたの?」
「あ!?いや、なんでも…ねぇよ。」
ぽん、と肩を叩かれていきなり声をかけられたから必要以上に吃驚して少し裏返った声が出た。しかも語尾は尻窄みだったから格好悪いことこの上ない。
3Dにはおよそ似合わない線の細い美少年(と、言って良いと思う、多分)が俺を見上げている。今年の春から編入してきたクセに、今では1年の時から居たみたいにしっくり馴染んでいるは訝しげな顔だ。俺は誤魔化すように笑みを浮かべ、鞄を持たない方の手での頭を撫でる。
身長差の所為か、の頭はすごく撫でやすい場所にあるのだ。これをすると直ぐ慎の眉が寄って、野田からすごい批難を浴びせられるけれど最早癖だ。
「どうしたんだよ」
「うん、慎が、ゲーセン行かないかって。」
慎はきっとひとりを誘ったんだろうけれど、のことだもう皆に声をかけて回ってるに違いない。不器用だからいつも行動が裏目に出ることが多い慎にこっそりと同情した。
同情するけど、担いでやる気はない。
「行く」
頷けば、は嬉しそうに笑った。
慎はクールな美青年といった風だがは笑うとそこら中の要らない視線まで全部かき集める美少年だ。一緒に歩いていて、もう何度も変なスカウトに合った。
そういうおかしなのをあしらうのも見た目に反してはうまい。
何というか、慣れすぎているのだ。オープンだし、明るくて人懐こいのに、どこか謎めいていた。
「猛がさ、その後カラオケ行きたいんだってさ。またお嬢様学校の子でもナンパするのかな?」
「慎とお前が居りゃなんとかなるだろ。」
「僕、ああいうナンパ向いてないんだよね。」
ふたりで連れだって歩き始めながら話していると、が苦笑して肩を竦めた。男友達とつるんでいる方がよっぽど慣れているらしく、女に囲まれるのは苦手なんだそうだ。慎の方がこの点についてはよっぽど手慣れてる。
「野郎でカラオケ行ってもつまんねぇんだろ。野田の為にも頑張ってやれよ。」
野田は別に、が居れば女子高生の有無にはさほど拘らないとは知っているが敢えて言った。眉を微かに寄せながら、は前を向いたままそうだねと呟く。
ナンパした女と仲良くなるのも、情報を聞き出すのも難しい事じゃない。ナンパが成功するまでは慎やが居るのと居ないのでは大違いだけど、その後は何とでもなるのだ。
それよりよっぽど、こうやってふたりで歩いているときの方が言葉を選ぶ。
は頭がいい。
それは、勉強とかそういうのだけじゃなくて、頭の回転がはやい。変に場馴れしてるというか、何かを聞き出したくて話を振ってもいつの間にかいいようにそらされてしまう。
「」
「うん?」
「…いや、」
俺、おまえのこと知ってるみたいで何にも知らねえんだ。
正直に、ストレートに言ってしまえればどんなに楽だろうかと思う。けど、きっと訊いたらは哀しそうな顔をするから、それだけは何故か確実に想像できて。
「ゲーセンからカラオケなんてコース、ヤンクミにばれたら怒られるんじゃねえの?大丈夫なのかよ。」
はぐらかすように揶揄って笑えば、俺を見上げた大人びた顔が子供っぽく笑った。
「ばれなきゃ怒られないよ。隠し事は結構うまいんだ。」
(ああ、よく知ってる。)
つられて笑いながら、俺達は並んで歩く。
遠くで慎や野田が手を振っているのが見えた。
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