A house of cards
「さん」
その時のさんは、少し洒落たカフェに溶け込んで雑誌を捲りながらコーヒーをすすってた。いきなり覗き込んだオレに珍しく驚いたように瞠目してコーヒーカップを皿に戻す。 「いつ?」 いきなり連れてかれたときは吃驚したけど。 「あの人に会ったってことは、田辺、お前。」 じっと探るような瞳に、オレは目をそらさなかった。 「続けるよ?止める気なんて、ないし。」 久しぶりに会えた旧友に結局売られてしまって、いや、あっさりと喰われてしまったオレ。暫く腹が立って腹が立って、苛ついて仕方なかったけど。 「さん、今どこに住んでんの?」 オレの問いに、さんの目が微かに揺れた。 「…黒崎のアパート。」 同じ詐欺師なのに、のうのうと変わらずに生きてて、それでもってあの時から変わらずオレよりもさんに近い場所に居るあいつ。 「あのさ、さんはさ…黒崎のことが好きなの?」 確認するように問いかける。 「分からない」 絞り出すような声に、オレはテーブルに片肘を突いた。近くを通った店員のおねえさんにカプチーノを頼む。 「このままじゃ、駄目だ。」
近状は、フィクサーのじいさんの側にいた女の人にいくらか聞いてる。黒崎の変化とか、さんが傷付くかも知れないこととか。聡いこの人はきっと全部理解してるはずだと思った。分かった上で、黒崎のために手ひどく自分を傷つけるんじゃないかって。 「黒崎の為にもなんねえし、それに、俺は、」 言葉が切れて、再びさんが俯いたタイミングでカプチーノが運ばれてきた。持ってきてくれたおねえさんに愛想良く笑って手を振る。 「田辺…」 目の前で、ギシギシと、音を立ててるみたいだった。きっと、もうすぐ壊れてしまう。
こんな弱々しくなってるこの人を、俺は知らない。 |
(070617)
実は未だ書いてた!的にクロサギ夢です。しかも田辺!!(笑)
小山の慶ちゃんが演じてた子だし、可哀想なところが結構好きだったんです(ぇぇ)