特別任務
「いや、無理ですって。」
下っ端ながら、心底呆れた声を出してしまった。この人達、俺よりも年上で、経験も豊富なクセして真面目な顔で何を言い出すんだ。 「いや、…何とかなると思うから、やってくれないか。」
俺以外の視線に突かれて、霧島さんが目を泳がせながらそんなことを言う。この人は一番まともだ。だって、その顔を見れば今回の作戦を馬鹿馬鹿しいと思っていることが直ぐ分かる。ただ、それを自ら進んで指摘してくれることが無いのが残念だ。「何とかなる」しかも「思う」って、それはもう結果も含めて丸投げしてるって事だろう。 (それにしても、一体誰がこんな作戦考えついたんだか…。)
これ見よがしに大きく溜息を吐いて、わかりましたよ、と小声で言った。途端、周りの空気は「やれやれ良かった」と、まるでもう作戦が成功したみたいに安心しきったものになる。一番ほっとしていたのは、これ以上無理な説得を続けなくて良くなった霧島さんだ。 「ファルコン見てるだけなら、別に大学生になりすます必要なんて無いと思いますけど。」
納得してないけど任務は受けた。でもやっぱり釈然としないものがあってぼやくと、加納さんが鼻で笑う。まさか学生に化けれる程若いサードアイは居ないだろう、と言うことか。 「…すまんな、。こんな任務を押しつけて。」
10以上も年下の少年を監視するっていうのがまず気分が良くないし、高校生もしくは大学生に変装しろという指示も気に入らない。でも、高木さんのことは密かに慕っているし、嫌だ嫌だといつまでも駄々をこねるほど子供でもない。
その後、小さな会議室で改めて説明を聞いた後、俺は机にひとり突っ伏していた。やっぱりどう考えたって学生にはなりきれない気がする。変に若い恰好で、若いふりをする自分を想像したらものすごく無理があるのだ。かなり寒い。恥ずかしい。 「なんだ、まだここにいたの?」
ふと、入り口の方から声がしてのろのろと顔を上げると、いつも通り綺麗な顔に厳しい表情を浮かべた南海さんが立っていた。呆れたようにも見える彼女は、小脇に何か雑誌を抱えている。 「私にやればいいのにとか思っても無駄だからね。あんた、私が学生のフリしてて大丈夫だとでも本気で思ってるの?」
睨み付けてきた南海さんに、あっさりと降参する。確かに、外見的には問題ないけど、彼女は中身がすっかりサードアイだ。こうやって、視線だけでも人を居殺せそうな雰囲気を身に纏っているのだ。いくら服装をどうにかしても、この滲み出る殺気にも似たオーラをどうにもできないのでは、任務にならない。 「それで、どうしたんですか?」
そう言いながら、南海さんは俺に抱えていた雑誌を放り投げてきた。空中でそれをキャッチして、両手に持って見てみる。モデルだか俳優だか、とにかく若くて華奢な青年が表紙を飾っているそれは、いわゆるファッション雑誌だった。全く持って、この場、つまりサードアイには相応しくない。 「私たちが選んだの。それ見て勉強したら、きっとなら学生に見えるでしょ。」
まじまじと雑誌を見つめていた俺にクールな視線を向けながら、南海さんは言った。俺に雑誌を手渡すという面倒な役を押しつけられて少し迷惑そうだったけど、確実に少し楽しそうだ。 「プリクラ撮ったら、渡しなさいよ。」
思わずムキになって言い返した俺に、彼女はそれはそれは楽しそうな顔で笑った。どういう恰好をしたらいいのか見当も付かなかったから、確かに雑誌は有難かったけれど、お礼を言うタイミングを逃してしまった。ここでお礼を言っても、何だか間抜けだ。 |
(090206)
最初に言っておくと、ドラマしか見たことがありません。
何となく見始めてずっと見てたんですけど、中身が中身だけにちょっと夢を書こうかどうか迷ってたんですよね〜。
でも、今回ドラマ設定で書かれてる方がいらっしゃったので、便乗してみました(笑)
ドラマ設定で1話よりも大分前。サードアイみんなの弟的存在です。