青い魚 3
あの良く分からない入学式から、早1ヶ月半。俺も新しい町と学校にやっと慣れてきた。 「おい、!」
そして、とてつもなく厄介なことに、この1ヶ月半で俺の周りもすっかり物騒になってしまった。自分から首を突っ込んだ覚えはないのだけれど、 「返事しろっつってんだよ!!」
1週間に一度、頻繁だと2日か3日に一度、こうやって呼び止められて喧嘩を吹っかけられる。買わなきゃいい話なのだ。自分から売ってはいないのだから。でも、やっぱりどうしても売られると買ってしまう。むしろ、こうやって定期的に喧嘩を売られ続けて前よりも忍耐というものがなくなってきた気すらする。 「んの用だよ。」 いつもと同じパターンに、俺は隠さず深々とため息をついてやった。当然、相手は顔の凄みが増す。 「俺喧嘩とか興味ねえの。鈴蘭のてっぺんとる気もないから、勝負持ちかけるなら他の奴にやってくんない?」
これだけ睨みつけておいて他を当たれなんて言っても無駄だろうが、一応断ってみる。これでお引取り願えるなら嬉しいけど、目の前では凄みのある顔がなおかつ真っ赤になり始めた。肩もわなわなと震え始めてしまっている。どうしてこう、こういう外見の奴は短気な奴が多いんだろう。もう少し気が長くても人生困らないと思う。 「ふざけんじゃねぇぞ!バカにしやがって!!」 言うが早いか、奴は分かりやすく拳を振り上げて殴りかかってきた。 (バカになんてしてねぇって。)
はあ、と、もう一度ため息をつきながら俺は相手を睨め上げた。拳が振り下ろされた瞬間に、体勢を低く落として一歩踏み込む。潜り込んだ懐で、鳩尾に硬く握った拳をめり込ませ
た。ドス、と鈍い音と同時に、拳にずんと痛みが走る。 「、っ!」
体格差のせいか露骨に飛び上がったり吹っ飛びはしなかったものの、頭上の顔が苦痛に歪んだ。ふらふらと覚束無い足取りで2、3歩下がる。 「く、そっ…涼しい顔しやがって…」 もう一つ言えば、涼しい顔じゃない。単に呆れているだけだ。 (この性格が仇になってんだろうなあ…。)
損な性分だとつくづく思う。余程頭にきたのか今度は無言で殴りかかってくる相手を拳に手を当てていなしながら、自分で自分に呆れてしまう。この性格のおかげで鈴蘭で1ヶ月半頑張れたにしても、我ながらもう少しスマートにできる気がしてならない。 「馬鹿の一つ覚えって言うんだぜ?そーゆーの。」
腹に蹴りを一発。今日は天気も良くて磨いたばっかりの革靴を履いてきたから、腹にめり込んだ踵はさぞかし痛いだろう。何より、さっき殴ったばっかりの場所だ。
強靱な肉体を持っていたって、さっきのダメージが抜けきっているとは思えない。 「っ…」
相手が蹌踉けて前身を屈めたところを、イチ、ニ、と大股で追いかける。そして、その顔目指して振りかざした手をそのまま勢いよく水平移動させた。小指が相手のほお骨に当たってしまったらしく
、ちょっとばかし痛さに口の端が曲がる。 「なあ、誰に言われて俺に喧嘩売ってきたの?」 |
(090322)
喧嘩ふっかけられたにしても、最後の方は主人公の方がいじめっこみたい(笑)
しかし、喧嘩だけで終わってしまったぜ…。